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世界の民族超入門: 山中俊之

※本サイトはPR表記を含みます。

世界96ヵ国で学んだ元外交官が教えるビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門」 読みました。本書にはたくさんの民族の話がでてきます。

初めてきく民族の話も多く、知らないことを知ることはとてもためになりますが、聞きなれない=イメージしにくいので繰り返し本書を含め、民族に関連する本なども読まないと入ってこない部分も多々ありました。

特に、印象的だったのは、

  • ドイツが過去の中央集権制度の反省(ナチス)から、世界で最も分権が進んでいる国だということ。
  • 日本は単一民族としての意識が強い。アイヌ民族も同じ民族とされた。
  • 民族と宗教は密接に絡んでいる。歴史は民族や宗教が原因で争いが絶えない。
  • 歴史において、特に悲惨だったのは奴隷貿易が存在したこと、ホロコーストの過去。

初見でも、この辺りはしっかりと胸に刻んでおかなければならないと思いました。

本書の話で出てくる登場人物で一番気になったのがシンガポール初代首相の「リー・クワンユー」です。差別が極めて少ない多民族国家を作りあげ、現在にシンガポールの発展に貢献した一人。「リー・クワンユー回想録」の本が読みたいのですが、プレミアがついていて、とても高価で手が出ません汗

ビジネスシーンでグローバルに活躍する方へ向けた本ではありますが、そうでない人でも勉強になると思います。

 

以下、ハイライトです。

民族を理解しないとポストコロナ世界を生き抜けない

人種や民族、宗教、所得、ジェンダーなどの違いがあるなかで、いかに相手の文化や価値観を理解し、その立場に共感できるかが問題解決のカギとなるというものでした。

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」に学ぶエンパシー

日本人は限りなく単一民族的です。みんな似ているし、争いはあまりないし、言葉もそう違わず、結婚・就職の差別も世界的にみればとても少ない。ただし、多様性がないから無知になり、発想が貧しくなります。多様でああることが新たな文化を育み、イノベーションの元となります。

「民族=国籍・国民」ではない。

「国民・国籍」と「民族」を混同しないことが、民族について理解し、日本人の民族偏差値を上げる第一歩となります。

民族とは文化的なものである

本書では民族を次のように定義します。

民族: 言語や文化、生活習慣、血縁等に関して、同胞仲間意識が広まっている集団。流動性・多層性などの特性を持つ。

文化・思想・政治に影響を及ぼす宗教

民族を定義する上で、宗教は欠かせない要素であり、特定の民族においては特に重要な意味を持ちます。

同じキリスト教であってもカトリックとプロテスタントの信者が半々に近いドイツ人が、プロテスタント系ドイツ人という民族と、カトリック系ドイツ人という民族に分かれているかといえば、そんなことはありません。宗教は、民族を決める大きな要素だが、民族を決めるすべてではない、ということも同時に押さえておきましょう。

民族問題の縮図―ウイグル人

ウイグル人の多くはイスラム教徒です。政治、文化、生活のすべてに影響をもたらす宗教を信じている点が漢民族との摩擦を大きくしています。

中国がウイグルにこだわり続けた理由は二つあると私は見ています。
一つは政治的理由。分離を求める異分子が、国家を脅かすという懸念です。漢民族を中心とした中華国家であらんとする中国は、香港や場合によっては台湾をも飲み込んで世界の覇者になろうとしています。規模はどうあれ、独立を企てる民族の存在を許し、それに続く民族・地域が他にも出てくる事態は避けたいのです。
二つ目は宗教的理由で、彼らがイスラム教徒であること。イスラム教徒は「ムスリム民族」といっていいほど国を超えたつながりがあります。ウイグル人の中には過激派組織イスラミック・ステート(IS)の戦闘員になった人もいます。中国にとって、新疆ウイグルが過激なイスラム運動の拠点となることは阻止したいところでしょう。

台湾と中国をセットで考えてはいけない

もともと台湾に住んでいた漢民族は(本省人)は疎外されました。少数民族たちは差別され、治安も乱れました。そこで「中国からきた国民政府軍(外省人)VS 本省人 + 少数民族のチーム台湾」という対立構造が生まれ、二・二十八事件が起きます。しかし。チーム台湾の反発は武力で押さえつけれられ、なんと1987年まで厳戒令が敷かれていたのです。
このような歴史を見れば、中国と台湾は政治的に対立構造にあるのはもちろんのこと、別の国であることも明らかです。

シンガポールは民族融和のモデルケース

シンガポールが経済発展を遂げ、多民族国家として成功しているのは、アジア史上最も優れた政治家、リー・クアンユーの存在が大きいと考えられています。
シンガポール初代首相リー・クワンユーは、独立したばかりの若い国を経済発展させるために英語化を進めました。「資源や産業のないシンガポールは、国際金融業、サービス業を強化すべきだ。それには英語が不可欠だ」というケンブリッジ大学仕込みの判断もあったでしょう。

ハングリー精神は言語格差を超えていけるか?

インドは英語ができないと一般に大学に行くことができない。英語話者=大卒=上位階層といった構造があるのです。

ジェンダー平等にも格差あり?

インドの政治家、企業家のうち活躍している女性は存在するものの、彼女たちは上流階級のなかで高等教育を受けた一握りの特別な人たちということです。

グローバル時代のリーダーになれるポテンシャル

昔はお金持ちも貧しい人も、緑の茂みのなかで野外排泄するのが普通だったからだそうです。ヒンドゥー教ではトイレを不浄な場所として嫌うので、家から排除したとのことですが、緑が多かった時代にはさほどトラブルもなかったのかもしれません。

政教分離はフランスのドグマ

イスラム教徒への差別や嫌がらせはヨーロッパのどこの国にもありますが、公の場で服装の是非を議論し、法律にまでしてしまうという点で、フランスは特徴的です。

中央集権と地方分離のバランスが取れたイタリア

イギリス、フランス、スペイン、イタリアなどヨーロッパの国は、いずれも異民族が支配者になることで混血が生まれ、民族がいわば上書きされています。このような上書き関係がEU誕生につながった遠因であると私は見ています。

ドイツの歴史

戦後のドイツは、中央集権制度の反省から国家制度を整えていきました。その結果、現在のドイツは再び分権性の強い連邦国家となりました。「ドイツは、ヨーロッパ、いや世界で最も分権が進んでいる国ではないか」と私は思っています。

ヨーロッパ屈指の名家だったハプスブルク家とは?

かつてあらゆる権力者は、大きな領土を求めました。しかし、今後は大国になることが必ずしも正解ではありません。むしろ大国になってしまうと、他の国から嫌われる。それを中国やロシアという「ご近所さん」がいる私たちはよく知っています。

「消えた国ギリシャ」が東ヨーロッパとロシアに正教を伝藩

ギリシャがようやく国としてまとまるのは19世紀になってからです。第二次世界大戦ではドイツ、イタリア、ブルガリアに占領され、戦後もロシアの影響からくる共産主義と王党派の対立から内線が多く、軍事独裁政権も長く続きました。
「ヨーロッパの創始者」を自負する民族でありながら、経済的には「EUのお荷物」として扱われることも多いのは、皮肉な話です。

リーダーシップがある人材はロシアで活躍できない?

長い国境線と北極海に囲まれているこの閉塞感がロシアの対外的な恐怖感につながり、対外的に強いリーダーを求める要因になっていると私は考えています。

ロシアのライバルであり旧本家でもあるウクライナ

ロシアの専門家がいうには、ウクライナは日本でいう奈良や京都のような存在であり、「いろいろあって国が分かれたけど、やっぱりロシア人の本拠地だ」という思いがロシアにもあります。

ユダヤ人の危機管理意識を学ぶ

なぜ起業家が多いかといえば、一つにはタルムードの影響で、「時間は限られているので生産性を上げろ」「常に新しいことを学べ」という教えがユダヤ人に脈々と根づいているからだと思います。
また、周辺のアラブ諸国と緊張関係にあるため、国家の安全保障は重要課題であり、その前提としての経済力の維持に力を入れていることも、ビジネスとテクノロジーの発達に影響を与えているでしょう。
歴史的に考えても、ディアスポラやホロコーストという辛酸をなめてきた民族だけに、ユダヤ人の危機管理意識は素晴らしいものがあり、もっと注目して良いと思います。

アフリカの民族を理解するための三つの視点

資料によれば、奴隷はアメリカやヨーロッパの人々に誘拐されたり脅されたりして、船に乗せられたわけではありません。
「この人たちを奴隷として輸出しよう」と欧米と取引したのは、地元アフリカの黒人だったのです。支配者層だった彼ら、おそらくほぼ男性だったと思われます、は、ヨーロッパの白人ほどではないにせよ、奴隷貿易で大儲けをしました。

同じ社会に生きているにもかかわらず、外国人と結託して貧しい人々を売り払った支配者層が存在したという事実は、人の心に強い不信感を植えつけたのではないでしょうか。「支配者層は自分たちを搾取し、略奪する存在だ」と。

アフリカの最古の国家・エチオピアの抱える民族問題

ティグレ族は民族自治を掲げたものの、実質的にはティグレ・ファーストの国であり、2016年のリオ五輪でマラソン男子銀メダルを獲得したエチオピア代表フェイサ・リレサ選手は、手錠をかけられるポーズでゴールしてティグレ族の政権に抗議しました。オロモ族の彼が帰国を果たしたのは、アビィ首相が就任した2018年です。

アパルトヘイトが南アフリカに残した正負の遺産

27年間も投獄されていたマンデラの大統領在任期間は短く、その後の大統領は、混乱する前の南アフリカの指導者たる資質にまったく欠けていました。黒人のなかにも豊かになった人はいますが、大部分は貧しいままです。

政治の腐敗はウガンダだけの問題ではない

「リーダー不在」。アフリカの有識者と話す時にアフリカ停滞の真因として挙がる理由です。奴隷貿易、植民地支配、民族の紛争、天然資源を巡る争い、インフラ不足、教育制度の不備・・・。過去の負の歴史を克服できるリーダーがいないことが引き起こす問題は今もアフリカを苦しめています。

人種分断の根っこは奴隷制の爪痕

南部の大農園でハッピーなのは資本家だけ。労働者にはデメリットだけでした。農場経営者にとって、何人奴隷がいるかは収益に直結しており、今の会社経営でいうと、奴隷は売上原価にほとんどならないローコストです。給料は限りなくゼロに近く、福利厚生も労働条件もないので人件費は最小限。敷地内に小屋を建て、栄養も何もない残り物を食べさせ、与えるのは最低限の生活ですから、奴隷として「購入」した時の代金だけで後は減価償却となるのです。

孤立しながら統合されてきたネイティブ・アメリカン

決定的なのは第七代アメリカ大統領アンドリュー・ジャクソンによる「インディアン強制移住法」の制定。先祖代々、自分たちの部族が守ってきた土地に住んでいた人たちを、「インディアン保留地」と決めたエリアに強制的に移住させるという、今日では考えらないようなひどいやり方です。特に悲惨だったのはチェロキー族で、住んでいたエリアにたまたま金鉱が見つかったために、1000キロ先に移住させられ、「涙の道」と呼ばれる旅の途中で多くの命が失われました。

「新大陸発見」ではなく「侵略」―先住民VSヨーロッパの相克の歴史

人類の歴史を俯瞰するとさまざまな戦争や略奪、殺戮がありました。しかし、規模や特定の人種や民族に対する人権侵害、現在への影響という点で捉えた時に、人類史で最も恥ずべき汚点は何かと考えてみると、アフリカの黒人に対する奴隷貿易、中南米の先住民に対する土地の略奪と殺戮、ユダヤ人に対するホロコーストが該当するのではないかと私は思います。いずれもヨーロッパ人によるもので、人類史における暗黒でしょう。

消えないヘイトスピーチーー在日コリアンへの差別偏見

1945年8月は、日本にとっては敗戦の時であり、韓国・朝鮮にとっては解放の時。それでも多くの人が日本に残ることを選んだのは、生活の拠点がすでに日本にあったこと、朝鮮半島が日本以上の混乱の最中にあったことが原因とされています。

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