「小さなチーム、大きな仕事 働き方のスタンダード」読みました。著者はジェイソン・フリード&デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンです。
「ベースキャンプ」というプロジェクトマネジメントツールを提供している企業であり、また著者の一人、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンは RubyOnRails のフレームワークを作成した人でもあります。(wikiによると元はベースキャンプからの知見など汎用性の高いものを抽出し構成したらしい)
本書では、企業としての在り方、働き方を様々な切り口で提案されていて、とっても面白く、一気に読了してしまいました。特に、昭和肌な、根性でなんでも乗り切っていこう、それを従業員に無意識に押し付けてしまっているような経営者に読んでもらいたいなと思いました。が、そうした人には実際読んでもらっても、中々受け入れることが難しいだろうな、と思える内容でもあります。(基本的に180度違う方針なので)
実際に今、自分が所属している組織も、少数精鋭であり、この本に書いてあることの7割以上は達成できているのではないか、と思っています。(別に棚に上げるとかではなく、冷静に優秀な人達と会社です)。
本書は、成果は長時間労働で出せるものではない、組織として必要なのは自立型の人間を採用すべき、そして従業員に対し、子どもを見張るような管理をしなくてもよい、仕事をしていてもずーっと集中できるわけではないから、別に途中にSNSやYouTubeを見たっていいじゃあないか、そして、仕事だけの責任ではなく、家庭や他のものを大切にする、むしろ会社以外の忙しい人を採用すべきである、ということを強い主張としていました。どれも共感です。(まあ息抜きは必要だとしても、程度にはよるかな…メリハリ・成果が大事ということです)
組織の属する人を完全に信頼し、働いてもらうことで、自立的にプロジェクトは進んでいく。無駄な会議や管理も必要ありません。たしかに、何かをアクションを起こす度にいちいち上司に許可を得なければ動けない組織だったら、楽しくもなんともないし、何かに囚われている感覚は、そもそもクリエイティブではないと思いますね。
クリエイティブな思考は、断じてリラックスした環境、息の詰まらない環境から生まれてくるものだし、「人から信頼されている」というポジティブな感覚も必要。
本書を読んでいると、「ほんまそうやわあ」「うん、ほんまそうやなあ」と何回うなずいたか。
IT関連書籍と言ってもいいぐらい、プロダクトについての考え方も述べられています。大抵の機能は必要性がなく、恐らく起きるであろう出来事は起きないので心配するなし。ということ。稀なケースに目配りをしていると、どんどんプロダクトは複雑化していき、誰にとってもやさしくないものが出来上がってしまう。というのも共感です。
プロダクトについての考え方、組織としての在り方、そして、働き方。自分が今いる環境を改めて感謝しながら、今後も業務に邁進していきたいな、という気持ちが沸々と湧いてくる良書でした。
本書は1つの事柄を凝縮させて述べているので、各テーマの合間にあるイラストがいい感じにリラックスできます。とても読みやすい。現在エンジニアの方、またはエンジニア組織に属する方には特にオススメです。
以下、ハイライトです。
会社の規模なんて気にしない
小さなビジネスを目指すことに不安を抱かなくていい。持続的で、利益の出るビジネスを行っていれば、それが大きかろうと小さかろうと誇るべきことなのだ。
仕事依存症はバカげている
仕事依存症患者はヒーローではない。彼らは危機を救うのではなく、時間を浪費するだけだ。本当のヒーローは、仕事をさっさと片付ける方法を見つけだし、とっくに帰宅している。
「起業家」はもうたくさん
「起業家」という言葉はひっこめよう。時代遅れでお荷物だ。会員制クラブの臭いがする。自分を起業家と呼ぶような特権階級だけでなく、誰でも自分のビジネスを始めることが奨励されるべきだ。
先に進む
昔ながらの案内広告を滅ぼした「クレイグスリスト」(特定の都市・地域限定の不動産、求人、イベントなどの情報が掲載されたコミュニティサイト)を見てみよう。ほんの数十人の社員で、この会社は数千万ドルの収入を生み出し、インターネットで最も人気のあるサイトのひとつになり、新聞の広告モデルを完全に崩壊させた。
あなたに必要なものを作る
すごい製品やサービスを生み出す最も単純な方法は、あなたが使いたいものを作ることだ。自分の知っているものをデザインするのなら、作っているものがいいかどうかすぐに判断がつく。
まずは作り始めよう
スタンリー・キューブリックは、映画監督の卵たちに「カメラとフィルムを持ち出して、なんでもいいから映画を撮れ」とアドバイスする。キューブリックは、不慣れなら作り始めることが必要だと知っている。一番重要なのは、始めることだ。
「時間がない」は言い訳にならない
何か本当にしたいことがあれば、他にやることがあろうとも時間を作る。残念なことに、多くの人はそれほどではないのだ。そして彼らは時間を言い訳にして自尊心を守ろうとする。言い訳してはいけない。夢を実現するのは、完全にあなたの責任なのだ。
決断することで前に進む
決断に決断を重ねる流れに入ると、勢いが生まれ、モチベーションも高まる。決断は進歩だ。あなたが決めた一つ一つのものは、あなたの土台の一部となる。「あとで決める」を積み重ねていくことはできないが、「決断したこと」を積み重ねていくことはできるのだ。
やめたほうがいいことを考える
何か役立つものを作っているのか、それともただ何かを作っているのか?
熱意と役立つことをはき違えるのは簡単だ。時々遊びでかっこいいものを作ってみるのもいいだろう。でもいずれ立ち止まって、それが役に立っているかを考えなければいけない。かっこよさはすり減っていく。
役に立つかどうかはすり減ることがない。
ヒーローにはなるな
やめることが最善の方法となりうることを覚えておこう。人はやめることを失敗と関連づけがちだが、時にはそれがまさに今すべきことである場合もある。すでに一つのことにそれだけの価値がないほど多すぎる時間を費やしたのであれば、そこから手を引くこと。その時間を取り返すことはできないが、最悪なのはさらに多くの時間を無駄にするこだ。
睡眠をとろう
睡眠不足を自虐的に自慢する人がいる。感心してはいけない。睡眠不足はあとで災いとなって跳ね返ってくる。
競争相手以下のことしかしない
あなたの製品やサービスがより少ないことしかできないからといって恥じてはいけない。それを強調しよう。それを誇りにしよう。競合相手が多様な機能リストを売りにするように、それを積極的に売り込もう。
競争相手が何をしているのかなんて気にしない
もしあなたがiPod潰しの商品、または次のポケモンを生み出すことを企画しているとしたら、すでに失敗している。あなたは競合相手が特色を強めるのを後押ししているも同然だ。あなたはアップルよりもアップルらしくすることはできない。彼らはゲームのルールを握っているのだ。そしてルールを作っているものを打ち負かすことはできない。あなたは少しだけ良いものを作るだけでなく、ルールを再定義しなくはいけない。
無名であることを受け入れる
今、あなたが誰なのかを知る人はいない。それでいい。無名であるのは、すばらしいことだ。日陰にいることを幸せに思おう。
この時こそ、世間にあれこれ言われずにミスすることに使おう。欠点をつまみ出し、思い立ったアイディアを試してみよう。新しいことに挑戦してみるのだ。誰もあなたを知らないのだから、失敗しても大きな問題ではない。無名であれば、プライドを失うことも自身を失うこともないだろう。
顧客をつくる
10年以上にわたり僕たちはブログシグナルVSノイズ」で、毎日10万人以上の読者、つまり観客を築いてきた。毎日、彼らは僕たちの伝えたいこと見に戻ってくる。
観客をつくるということは、彼らが興味を持ってくれるということであって、人々の注意を買うのではない。これは非常に大きな利点だ。
だから観客を「つくる」のだ。話す、書く、ブログを書く、ツイッターでつぶやく、映像を作る、何でもいい。価値ある情報を共有し、ゆっくりと、だが確実に忠実な観客を獲得するのだ。
競合相手に「教える」
教えることで、従来のマーケティング戦略では不可能だった新しい関係を築くことができるだろう。雑誌やバナー広告を使って人々の興味を引くのも一つの手であるが、教えることにより顧客の忠誠度を高め、まったく違ったつながりが作れるのだ。信頼も増し、尊敬さえしてもらえるだろう。たとえ彼らがあなたたちの製品を使わなくても、ファンでいてくれるだろう。
料理人を見習う
自身のノウハウは特権的で、競合他社へのアドバンテージになると考えるのだ。まあ、うまくいくこともあるかもしれないが、たいていはそうはいかない。だから、そんなことは考えないほうがいい。共有することを恐れてはいけない。
造花が好きな人はいない
欠点を見せることを恐れてはいけない。不完全さはリアルであり、人はリアルなものに反応するのだ。だから、僕たちはいつまでも変わらないプラスチックの花より、しおれてしまう本物の花が好きなのだ。どのように思われるか、どのように振舞うべきか、あれこれ心配する必要はない。すべてありのままの本当の自分を世界に見せればいい。
文句は放っておく
ボートを揺らせば波も立つ。新しい機能を導入する、方針を変える、何かを削除するといったことの直後には必ず反動があるものだ。それらに対応するためにパニックに陥ったり、すぐに前言を撤回したりする必要はない。最初は感情的反発が起こる。それが普通。最初の一週間を乗り切れば、落ち着くものだ。
決定は一時的なもの
「もしかしたら」
「これが起こったとしたら」
「この場合のためのプランも感がなくては」
まだ起こっていない問題を作ってはいけない。現実に問題になってから考えれば良いことだ。多くの「もしも」は起こらない。
ロックスターは環境がつくる
ロックスター環境とは信頼と自律と責任から生まれるものだ。彼らにプライバシー、仕事場、必要なツールを与えた結果である。良い環境は働いている人を尊重している証拠だ。
従業員はガキではない
そもそも、あなたはみっちり一日八時間の仕事を従業員からは得られない。八時間の就業時間かもしれないが、それは八時間の仕事ということではない。人には気分転換が必要だ。ちょっとフェイスブックやYouTubeを見たところで問題はないはずだ。
五時に帰宅させる
多くの会社では、仕事以外にやることがなく、一日十四時間働いて机の下で寝るような二十代が理想的な社員だ。
だが、部屋いっぱいにそんな連中を集めても思いのほかうまくいかない。そういう態度こそ「大会社に対抗するにはこのやり方しかない」という神話を作るのだ。大会社の何倍もの時間が必要なのではなく、より良い時間が必要なのだ。
あなたらしく話す
あなたらしくていけないことはない。正直であることもスマートなビジネスにつながる。言葉は第一印象だ。なぜ嘘から始める必要がある?自分自身であることを恐れてはいけない。
これはメール、郵便物、インタビュー、ブログ、プレゼンテーションなど、言葉を使うあらゆる場面で同じことがいえる。顧客と話すときには友人と話すようにしてみよう。隣に座っているかのように説明しよう。専門用語や美辞麗句も無用だ。流行語だって必要ない。「マネタイズする」とか「透明性を保つ」ではなく、「儲ける」や「正直でいる」というふうに。あなたの言葉を読むであろう人たち全員のことを考えながら書いてはならない。一人のことを考え、その人のために書こう。多数の人のために書くと大雑把でギクシャクした文になってしまう。ターゲットを定めれば、言いたいこともまとまってくるだろう。
四文字言葉
これらの言葉を一緒にするのは特に危険である。「この機能は今必要だ。これ無しでは発表できない。みんな欲しがる。ほんの小さいことなんだから簡単だろう。早くできるだろ」。単語の数は数え切れるが、このリクエストはなんと100以上の想定の可能性を生んでしまうのだ。これこそ災難へのレシピだ。
最後に
みんながアイディアを持っている。アイディアは不死身だ。アイディアは永遠だ。一方、ひらめきは永遠に持続できるものではない。果物や牛乳のように賞味期限がある。
何かしたいことがあれば、今しなければいけない。しばらく放っておいて二カ月後に取りかかるというわけにはいかない。「後でやる」とは言えない。「後で」ではそんなにやる気満々でもないだろう。